俺の色に染まっている

 女と言う生き物は、何とも不思議な生き物だと思った。
 別れてしまった彼女の事だけれども、知らないうちに何となく俺の色に染まっていたのだ。
 初めて会ったのは、キリンシティーだった。
 俺が客で、彼女はウエートレスをしていた。
 
 ランチタイムが終わり、暇な時間帯で客は俺の他には二組のオッサン達がいただけだった。
 タクシードライバーをしている俺は、この日は明け番で、おまけに翌日は休みと言うローテーションだった。
 世間の人々が働いている時間帯に、一人で好きな本を読みながら一杯飲むのは、なんだか優越感が湧いてくるから好きな時間の使い方だった。
 昼間に開いている飲み屋は、俺の行動範囲にはあまりないため、キリンシティーにはよく出かけてくると言うわけだ。
 オーダーを取りにきた女性スタッフに、俺はちょっとビビっときた。
 可愛いって感じで、どストライクだった。
 俺は彼女にオーダー以外には話すことができず、なんとか彼女とコンタクトを取ろうともがいた。
 そんな時に彼女が注文したパスタを持って来たそのとき、なんとそれをこぼしたと言うのか、ぶちまけてしまったのだ。当然俺の着ている物にもかかり、特にジーンズは悲惨な事になってしまっていた。
 「申し訳ありません、本当に申し訳ございません。すぐにお絞りを持ってまいりますので、本当に申し訳ございません」と、恐縮することしきり。
 彼女はお絞りをもって、店の責任者をともない、戻ってきた。
 責任者も恐縮することしきりで、名刺と一緒にクリーニング代にして欲しいと言って、封筒に入れたお金を俺に渡そうとした。
 俺は「わざとじゃないから気にしないでください。それと、こんなことで彼女をとがめないで欲しいんです。決してわざとではないし、僕が座っている席の床が微妙に盛り上がっているので、そこにつまずいた感じではないでしょうか。余計なことかも知れませんが、設備にも問題があるかもしれないですね」と言った。
 彼女は「とんでも御座いません、全て私の不行き届きですので・・・・・、本当に申し訳ございません」と、少し涙ぐみながら詫びた。
 俺は、改めて持って来てくれたパスタを喰い、ビールとワインを堪能して店を出た。当然というのか、料金は取られなかった。
 トマトソースの匂いがたちこめるジーンズには閉口したが、それはそれで、何となく得をした感じだった。
 「あの〜、本当に申し訳ありませんでした。それに、ドジな私を庇っていただいて・・・・・・・。これ、私の連絡先です。何かありましたらご連絡をください。本当に申し訳ありませんでした」といって、小さく折り畳んだ紙片を俺の手に掴ませた。
 「あんまり気にしてはいけないよ。萎縮すると、仕事に影響が出るかもしれない。おおらかに、気持ちをゆったりと持った方がいいかな?」と俺は彼女に言った。
 これが引き金になり、今は俺の大切な彼女になっている。
 あんなに気の小さかった彼女が、今ではおおらかで、ゆったりとした、気持ちの優しい女性になっている。
 いつの間にか、俺の色に染まっていると言うわけ。
 お互いに、これからもゆったりとした気持ちで付き合って行くつもりだ。

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